2024年04月11日 カテゴリ:眠り

夢分析で心がわかる?精神科医・名越康文先生に聞いた、夢から紐解く「無意識」の世界

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夢分析で心がわかる?精神科医・名越康文先生に聞いた、夢から紐解く「無意識」の世界

「なんでこんな夢をみたんだろう?」思わぬ夢に驚いて目が覚めた、なんて経験のある人は多いのではないでしょうか。

空を飛んだり、未知の生物に遭遇するようなファンタジーな夢をみることもあれば、実際に経験した出来事を反芻するような夢をみることも。夢は実にバリエーションに富んでいます。

科学的には未だ解明の余地が多く残るといわれる「夢」ですが、心理学の世界では、夢からその人の性格や心理状態を分析する「夢分析」が長らく臨床の場で実践されてきました。

そこで今回ご登場いただいたのは、テレビ・ラジオでコメンテーターを務め、映画評論、漫画分析などが人気の精神科医・名越康文先生。名越先生は精神分析の中でもアドラー心理学を専攻されていました。

心理学的に夢はどのような存在なのか、また夢をモチーフにした映画作品について、お話を伺います。
   

夢の内容をもとに傾向を探る「夢分析」とは?


——心理学の中で夢はどのような歴史を辿ってきたのでしょうか?

夢というのは、科学的にはわかっていないことがほとんどなんですね。あまりにも夢はバラエティに富んでいるため、それをどう整理して実験の俎上(そじょう)に乗せればよいのか、そのやり方さえも人類はまだ思いついていないんですよ。

一方で、科学的ではないけれど「夢分析」という形で夢を扱ってきた臨床家はたくさんいます。夢分析といえば、「無意識」の解明に力を注いできたフロイトやユング、アドラーなどが有名ですね。みなさんも聞いたことがあると思います。

——具体的に夢分析とはどのように行われるのですか?

夢の内容を手がかりに、その人の心理状態や性格傾向などの分析を行います。

フロイトとユングの夢分析と、僕が専攻したアドラーの夢分析は考え方が全然違うんですね。フロイトとユングは「象徴分析」といって、例えば夢の中に山が出てきたら男性、谷が出てきたら女性をあらわしているなど、「夢に出てきたものが何かを象徴している」という考え方です。

一方、アドラーの夢分析は、夢に出てくる自分は現実世界の自分と同じ性格(アドラー心理学では「ライフスタイル」という)というのが基本的な考え方。僕なんかは思春期の頃、夢の中で戦国時代に放り込まれたりしたわけですよ。そういう現実世界ではあり得ない状況の中で、自分がどういう行動をとるかを分析するんです。

夢の中の自分と、現実世界の自分は同じ性格だから、「こういう場面は自分は冷静な判断力をなくすんだな」とか、反対に「この人を守るためには相手と冷静に交渉するんだな」とか、夢が自分の性格や行動の傾向を教えてくれるんです。

——なるほど。夢の中での振る舞いが、現実の自分の傾向を教えてくれると。

アドラーの夢分析は特に基礎知識がいらないですからね。基本的に夢に出てくる自分は、自分の一部だと思えばいい。恐れずに分析すると、より良く生きられるヒントが見つかったりするから、おもしろいですよ。
 

アドラー心理学では、「夢は“いまの自分”を反映している」と考える


——先生が分析した夢の中で印象的だったものはありますか?

よく覚えているのは、高校生くらいの男の子のクライエントがいましてね。最近みた夢の話をしてくれました。

彼は公園で自転車の練習をしていて、お父さんが後ろから支えてくれていたんです。でも、ふと後ろを振り返ったら、お父さんはすでに手を離して遠くに立っていた。すると、彼は途端に怖くなってバタンと自転車ごと倒れてしまったと。

その夢を話してくれた1ヶ月後、彼の容態はだいぶ良くなっていたんですが、また同じ夢をみたと言うんです。振り返ると変わらずお父さんは手を離しているんだけど、でも、今度はお父さんはニコニコ笑っていて、自分も1人で自転車に乗れることが誇らしくなって、そのまま走り続けたんですって。

つまり、夢の結末が変わっているわけです。1ヶ月前は、おそらく世界は危険な場所だという人生観を持っていた。だから、父に手を離されるということは、「見捨てられる」という恐怖のイメージに紐づいていたのでしょう。

しかし、調子が良くなると「大丈夫、1人で生きていける」と世界の見え方も変わっていったというのが、僕の解釈です。

——まさに、夢がそのときの心の状態をあらわしていたということですね。覚えている夢とすぐに忘れてしまう夢があると思いますが、その違いは何なのでしょう?

人間は寝ているあいだ、絶えず夢をみているといわれています。でも、そのほとんどは忘れてしまう。人間の記憶はどんどん忘れるようにできています。

ただ、稀に強烈に忘れられない夢ってありますよね。これは完全に僕の持論ですが、忘れないということは、消化できていないということだと思っています。

つまり、なんでそんな夢をみたのか納得できていない。「あの夢は、もしかしたらこういうメッセージだったのかもしれない」と自分の中で意味づけできたり、目の前の課題が解決されたりすると、パッタリその夢をみなくなることもありますから。

必ずというわけではないけれど、それだけ夢は現在を反映しているんだと思います。アドラー心理学では、夢の登場人物が幼少期の自分だったとしても、あらわれているのは「今の自分の課題」であると考えるんですね。
   

『羊たちの沈黙』、『2001年宇宙の旅』など夢っぽい名作



——以前、名越先生は「ハリウッド映画は例外なく、フロイトやユングが扱ってきた無意識が題材になっている」とお話しされていました。心理学的にみた「夢」をよくあらわしている作品にはどんなものがありますか?

トマス・ハリスの小説『羊たちの沈黙』は、まさに夢の話ですよ。主人公は何度も同じ羊の夢をみます。檻の中から逃げることができず鳴いている羊は、幼少期の自分をあらわしていたことが物語の終盤で明らかになっていきます。最後は、囚人であるハンニバル・レクターが彼女を解放するという、恐ろしい話ですよ(笑)

あとは、『2001年宇宙の旅』はスタンリー・キューブリックが創造した夢とも言えるんじゃないかな。最後に、巨大な赤ちゃんが地球に向かってやってきます。「人間はもう一度生まれ変わらなければいけない」といったような、いかにも啓示的なラストシーンです。

名作と呼ばれる映画の中には、突然場面が切り替わるなど解釈不可能なシーンが散りばめられていることもありますよね。『2001年宇宙の旅』の7色の閃光がほとばしるシーンなんかは、真っ暗な映画館で観るからこそ強いインパクトが残る。

暗闇の中で映像や音を通じてメッセージを受け取るという意味では、映画は夢っぽいところがありますよね。

——言われてみれば、たしかにそうですね!

無意識を扱う精神分析は、科学的には実証できないけれど、映画や小説などの作品づくりには、かなり大きな影響を与えてきました。

夢というのは、空を飛んだり、時空を飛び越えたり、非常に創造性のある営みです。その性質上、作品づくりに影響を与えるのは納得がいきますよね。
 

夢の中に“より良く生きるヒント”が隠れているかも


——改めて、名越先生が思う“夢のおもしろさ”とは何だと思いますか?

夢の中には、自分ではあるけれど、“知らない自分”も出てきます。

最近、「僕の能力はこれくらいだから、年収は稼げてもこれくらいが限界だと思うんです」といったようなお話をされる方に出会うことが多い気がするんです。でも、僕からするとね、自分の可能性を今の時点で決めつけてしまうのはすごくもったいない。

自分の中には未開の領域や新たな可能性があるからこそ、我々は突飛な夢をみるんじゃないかな。だから「私はこれくらいしかできない」と思い込んでいる人も、夢を手がかりに新たな自分を発見してみたらおもしろいんじゃないですかね。

ただ、自分1人で分析すると都合のいい解釈に落ち着いてしまう場合もあるから、誰か身近な人と夢について話してみるのがいいかもしれないですね。「こういう意味なんじゃないの?」と客観的に言ってもらうことで、より良く生きるヒントが見つかるかもしれません。
   

睡眠の改善には、「何をするか」ではなく「何をやめるか」が大事


——夢の中には、楽しい夢もある一方、怖い夢に悩まされる人も多いですよね。怖い夢をみるということは、何かストレスや疲労を抱えていたりするものなんでしょうか?

ストレスや疲労を抱えているから怖い夢をみる、とは言い切れません。

ただ、不安を抱えている時期には僕も怖い夢をよくみていたし、経験的に共感する人は多いと思います。ストレスとの関係性はわかりませんが、夢を頻繁にみるということは眠りが浅い可能性はあります。

僕は睡眠の専門家ではないですが、日中の過ごし方がその日の睡眠の質を決めると解釈していて。「夕方以降はカフェインを摂らない」「朝に陽の光を浴びる」「午前中に運動する」など、できることはいろいろあります。

日本人は睡眠時間が足りていない人がほとんどですから、就寝時間を1時間早めるだけでも悪夢が落ち着く可能性はありますね。1日だけではあまり意味がありませんから、少なくとも2週間は毎日続けることが大切です。

——根本的な睡眠改善には、やはり継続が欠かせないのですね。

ただ、これを毎日実践できる人ってそうそういないんですよ。なぜなら、みんな今の生活スケジュールを変えないままに取り組もうとするから。今の生活を変えずに、「午前中にジムに行って運動しよう」と思ったら、余計に生活に余裕が無くなってしまいます。

だから、今の忙しい生活の中で「何を削れるか」を考えることからはじめましょう。例えば、「家に仕事を持ち帰るのをやめる」と決める。

すると、その分夜にゆとりができますから、早く眠れるようになって、その結果、朝に散歩する時間を増やすなど、日中の行動も無理なく変えられるかもしれません。

 
***


これだけ科学が進歩した現代でも、まだまだ解明の余地がある「夢」の存在。明らかになっていないことが多い分、「なんでこんな夢をみたんだろう?」と私たちの興味を駆り立てます。

楽しい夢も怖い夢も、まだ知らない自分の新たな一面を見せてくれているのかもしれません。

 

精神科医 

名越康文先生

1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学、龍谷大学客員教授。

専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。
「THE BAEDICBAND」として音楽活動にも精力的に活動中。
「名越康文シークレットトークYouTube分室」も好評。チャンネル登録12万人

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