2023年12月11日 カテゴリ:眠り

おやすみ前にお灸で気持ちを鎮めよう。自宅でできる“セルフお灸”の始め方

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おやすみ前にお灸で気持ちを鎮めよう。自宅でできる“セルフお灸”の始め方

古くから親しまれてきた「お灸」は今、じわじわと人気を集めています。その理由は、自宅でも簡単に、なおかつ安全にお灸を据えられるようになったから。

鍼灸は今から約2000年前に中国で体系化され、その技術は仏教伝来と共に日本に伝わったと言われています。江戸時代には“お灸ブーム”が起こり、市民のセルフケア方法として普及していたとか。お灸をモチーフとした浮世絵や落語も残されています。

今回は、京都のお灸専門治療サロン「お灸堂」院長の鋤柄誉啓(すきから たかあき)先生に、お灸が“入眠儀式”にぴったりな理由やセルフお灸のやり方、初心者におすすめのツボについて、教えていただきます。
   

体のスイッチを切り替える、お灸の“温かさ”と“香り”



お灸とは、ヨモギの裏側にある綿毛を乾燥させた「もぐさ」と呼ばれる熱源に火を点け、不調を感じる部分やツボがあるポイントなどに据える治療法。

なじみのない人には“熱い”といったイメージが先行しがちですが、お灸が不調の治療に用いられる理由はどこにあるのでしょう?

「お灸は火を使いますから、熱いというのは間違いありません。ただ、我慢できないほど熱いものでもありません。お灸を据えると初めのうちは温かく、次にピリピリとした熱感を感じるようになります。この熱刺激に体が反応して、ピンポイントで血流が促進されます

お灸について詳しく知らない人でも、「肩こりの解消にお灸」といった印象はあるはず。これは“温めると体がやわらかくなる”とイメージするとわかりやすいかもしれません。例えば、肩こりとは肩周辺の筋肉が緊張してしまい、血行不良を起こしている状態。これをお灸の温熱により、改善させているのです。

「お灸を据えると、お香のような独特な匂いがします。これはもぐさの原料であるヨモギに含まれるシネオールという香りの成分に由来しています」


鋤柄先生おすすめのお灸。『長生灸(ちょうせいきゅう)』

ぐっすり眠るためには、日中の活動的な状態からリラックスした状態へ、体のスイッチを切り替える必要があります。お灸の心地よい香りと温熱刺激は、おやすみ前に気持ちを鎮める助けになります。
 

煙が苦手でも大丈夫!高まる人気を支えるお灸の進化

「ただ、最近は、お灸の煙が苦手という方も少なくありません」と鋤柄先生。

それなのに、じわじわと人気が高まっている理由は、お灸が進化し、煙の少ないタイプも登場しているから。


鋤柄先生おすすめのお灸。煙が少ないタイプのお灸『せんねん灸の奇跡』

「眠りにつくためには深部体温の低下が必要であり、深部体温を低下させるには、体の末端である手足から熱を放散させる必要があります。赤ちゃんは眠くなると、手足が熱くなりますよね。あれは深部体温を下げるために、手足から放熱している証拠。お灸の温熱刺激で手足を温めることで、眠りやすい体への準備を整えます」

「深部体温」とは、脳や胃腸といった体の内部の温度のこと。

寝つきを改善するために湯船に浸かることが推奨されるのも、入浴によって深部体温を意図的に上昇させると、上がった体温が低下するタイミングで眠くなるからです。

また、中国から伝わったお灸は、漢方と同じように東洋医学をベースとした治療法。

東洋医学には「陰陽(いんよう)」という考え方があり、これを1日の時間帯に当てはめると「日中は陽」「夜は陰」、これを人体に当てはめると「お腹から上(上半身)は陽」「お腹から下(下半身)は陰」というように区分されるといいます。

「頭を働かせたり、目配りをしたり、陽の時間帯である日中の私たちは上半身をフル稼働させています。一方、陰の時間帯である夜は、上半身に費やしていたエネルギーを下半身におろし、身体を休息させる時間。しかし、上半身の疲労が大きすぎると、エネルギーを下におろす気力さえなくなります。このバランスを整えようとするのが、東洋医学の考え方です」



そこで力を発揮するのがお灸。就寝前、お灸によって下半身の血行を促進させると、上半身にたまったエネルギーが下半身におりやすくなるのだそう。

すると、身体を休息させる、つまりは睡眠に向けた準びが整いやすくなります。
 

簡単に心地よく!自宅でゆったり“セルフお灸”にトライ

ここからは、簡単にできるセルフお灸のハウツーをご紹介します。

「お灸の治療院では従来と変わらず、米粒大にひねったもぐさに着火する方法が主流ですが、ご自宅なら『せんねん灸の奇跡』や『長生灸』をはじめとする、もぐさが筒状にまとめられ、シールの付いた台座のあるタイプがおすすめです。台座があることから安定して据えることができ、温熱の伝わり方も穏やか。熱さのレベルも選べるため、低温のタイプから試してみてください」



▶ 必要な道具
台座付きのお灸、ライターや着火棒、水を張った灰皿や器、お灸を据える位置をまとめたツボの解説図やツボの説明書、据える位置に印を付けるためのサインペン

▶ お灸の据え方
1:ツボの解説図やツボの説明書を参考に自分の症状に合わせたツボを探し、そこに印を付ける
2:お灸の台座に付いた薄紙を剥がし、指先に貼り付けたら、お灸の先端に火を点ける
3:火が点いたら印の位置に貼り付け、ピリピリとした刺激を感じるまでそのままにする
4:台座の部分をつかみ、ひねるように取り外し、水を張った灰皿や器に捨てる
※詳しくは商品の説明書を併せてご確認ください。







「温熱に対する皮膚感覚にはグラデーションがあります。ぬるさから始まり、温かくなり、次第にピリピリとした刺激を感じます。このピリピリが、お灸の温熱が体に作用したサイン。そこから先は熱い、痛いといった感覚になるため、ピリピリとしたらひねるように取り外し、水を張った灰皿や器に入れしっかりと火が消えたことを確認しましょう」

まずはここから!初心者におすすめのお灸のツボ3選

セルフお灸のハウツーをご紹介したところで、次はお灸を据える場所をレクチャー。お灸を据える手順に慣れるにも◎。初めてでも据えやすい、手と足のツボをご紹介します。  

眠気覚ましにも効果的!「合谷」



合谷(ごうこく)は手の甲にあるツボ。ここなら初めてお灸を据える人にも簡単です。頭痛眼精疲労歯痛にも用います。朝に眠気を覚ましたいときにもおすすめです。 場所は親指と人差し指の骨が交差する、水かきの部分。この水かきの辺りに触れると、ポコッと窪みが見つかるはずです。この窪みの位置にお灸を据えます。
 

フル稼働した頭を癒す「太衝」



太衝(たいしょう)は気を鎮めるツボ。日中にフル稼働し、のぼせた状態の頭をリフレッシュ。快眠のみならず、顔のほてりを感じたときにも据えます。 場所は足の親指と、その隣の第二指が交差する、これも水かきの部分。合谷と同様に、互いの骨がV字に交わる少し手前に窪みがあります。ここがお灸を据える位置です。


下半身を巡らせる「三陰交」



三陰交(さんいんこう)は下半身の巡りを改善し、体を眠りやすい状態に整えてくれます生理痛のお悩みでもお灸を据えるツボです。



場所はくるぶしから指4本分上の位置。くるぶしの上部には、すねの骨が通っています。三陰交のツボは骨と筋肉の境目にあるため、骨のヘリにお灸を据えましょう。

じんわり、ゆったり。眠りへと誘う、お灸のひとときを



「お灸を据える際の注意点としましては、熱さを我慢ぜず、ピリピリと熱を感じたら外してしまうこと。発熱時や飲酒時などは避けること。また、体力が極端に落ちているときなどもお灸を控えるようにしてください。

体に刺激が入ると、それに対して体は何かしらの反応を示します。お灸を据えて何も起こらないことはありませんので、小さな体の変化に気持ちを向けてみてください」

ちなみに、お灸を据える場所はツボにとらわれる必要はありません。アボカドの熟れ具合をチェックするときのように、体に優しく触れてみてください。そこで、『ここ、ちょっと硬いぞ、張っているぞ』と感じる部分があれば「お疲れのサイン」と鋤柄先生。ぜひその場所にお灸を据えてみてください。


体に優しく触れ、硬い場所をチェック

鋤柄先生はお灸を据えるタイミングとして「眠る前」を推奨しています。

お灸を据えるのにかかる時間は、ほんの束の間。しかし、その時間は体の動きが制限されるため、おのずとゆったりした気分に。1日の終わりに心落ち着くひとときを過ごすことができるでしょう。
 
***

「お灸の温熱を感じ、煙の香りを感じ、ゆったりと過ごすひとときは、寝る前の儀式のようなものです」と鋤柄先生。お灸を就寝前の習慣にできたなら、それが自分自身を就寝モードへと切り替える“入眠儀式”になります。

まずは気軽にトライし、心地よさを感じることができれば、お灸がおやすみ前の習慣になるかもしれません。

 

鍼灸師・「お灸堂」院長

すきさん

“本名・鋤柄 誉啓(すきから たかあき)。1985年生まれ。鍼灸師。お灸堂院長。明治国際医療大学にて鍼灸師の国家資格を取得後、2013年、全国でも珍しいお灸と養生の専門サロン「お灸堂」を京都で開院。自院で日々施術や養生の相談にのるかたわら、「シンプル」「わかりやすい」「ユーモア」をモットーに、楽しく続けられるお灸や養生のコツを、毎日Twitterで発信中。テレビやラジオへの出演、雑誌コラムの執筆、お灸にまつわる商品の企画・販売など、枠にとらわれない幅広い活動を行っている。著書に『ゆるませ養生』(大和書房)。『絵でわかる京都お灸堂のほどよい養生150』(学研プラス)など。

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